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APRS
Automatic Packet Reporting System

UI-VIEW32を使ってデジピータを運用する

デジピータとは、受信したデータを再送信する局で、データをバケツリレーのように配信してくれます。


■APRSにおけるデジピータの効果■

◎デジピータを利用しない場合


・APRS局同士の電波が届く範囲内だけでデータの送受信
・この範囲内にI-GATE局がない場合はAPRSサーバーにデータが行かない。

これではちょっとサビシイ。

◎デジピータを利用した場合

デジピータにデータを再送信してもらうことで多くのAPRS局にデータを受信してもらえる。
上記の図の例だとにおいてA局のビーコンはB局やI-GATEには届かないのだがデジピータのおかげで同時に届く。


■デジピータの動作を理解する■

■デジパスとエイリアス

VX-8やTM-D710などAPRSに対応したAPRS端末(トランシーバ)にはデジパス(DIGIPEAT PATH)という設定項目があり、そこに、デジピータを起動するための文字列を設定しておけば、送信するたびにその文字列に対応したデジピータが反応します。※デジパスは一度設定すると次に変更するまではその設定が生き続けます。
 しかも、まさに「バケツリレー」ができるのがAX.25パケット通信の面白いところで、指定により複数のデジピータを順序良く起動させてデータを送ってもらうことができます。これを「多段デジ」と言い、APRSでは1段〜2段のデジを設定するのが一般的です。

結論からいえば、端末側では以下の2つの方式のうちのいずれかに設定します。地域によって異なる場合がありますが、どちらかで大丈夫なハズ。下表はVX-8での設定例で、出荷時は@のNew n-n パラダイムになっており、現在は@が主流です。

VX-8の APRS SET MODE / 15 DIGI PATH
@New n-nパラダイム ARELAYパラダイム
デジパス1に 「WIDE1-1」 デジパス1に 「RELAY」
デジパス2に 「WIDE2-1」 デジパス2に 「WIDE」
デジパス3以降は ----- デジパス3以降は -----

どのような動作になるかというと、上記@のように設定した場合、その端末で送信したデータ(ビーコン)は、「WIDE1-1」デジピータから再送信され→「WIDE1-1」 デジピータの電波を受信した「WIDE2-1」に設定されているデジピータでふたたび送信されるという2段階の動作となります、2局以上のデジピータがデータを配信してくれるのです。これにより、多くのAPRS局の端末にデータが届きます。試しに、144.64MHzや144.66MHzを耳で聞いみてください。モービル局などがデータを送信すると、複数の局が同じデータを次々に再送信している様子を聞くことができます。

←デジピータの動作

自局が発射したビーコンは、WIDE1-1(狭域デジ) -> WIDE2-1(広域デジ) という順番でバケツリレーのように配信され、各デジピータの電波のカバー範囲内に居る全局にまんべんなくデータが届くように設計されている。
 全国的に、WIDE1-1、で動作するデジが主流となり、WIDE2-1デジは実際には極めて少なくなっている。日本の地理的・地形的な現状を察し運用局の増加にともない WIDE1-1 デジのみで充分となったという意見もある。

 そうなんです。従来のパケット通信では、「BBS(今で言う掲示板)とそれをアクセスするユーザー」との間でコネクトしておこなう1vs1の通信が主流でしたが、APRSでは1対多なのです。いかに広範囲に効率的にデータをばら撒くか、を追及したのがAPRSをふくめたGPSパケット通信の共通事項と言えましょう。
 もっとも、APRSの仕様では移動体(ハンディ機など)でも様々な情報がやりとりできる事を目標とした双方向のネットワークと定めていますから、それを支えるのは端末から発信されたデータを広範囲かつ効率的に双方向で伝送するしくみ。その主役が「デジピータ」です。IGATEばかりがネットワークを支えているわけではなく、デジピータとのハーモニー(協調)も重要です。

■日本のAPRS用デジピータで設定されているエイリアス(起動のためのキーワード)
※現状に基づき解り易く簡素化してまとめたものです。
※RELAY / WIDE の組み合わせもありますが、現在は一般的ではなくなりました。

エイリアス 定義 対象となりそうな設置場所
WIDE1-1 おおよそ半径10Km以内の局を対象とした中狭域デジピータ 一般の固定局
WIDE2-1 おおよそ半径10Km以上をカバーする広域デジピータ 山やビルの上
※その他に、UIFLOODやUITRACE機能(SSIDが減算される機能)を利用して、指定した都道府県内のデジのみ反応させる方法考案され、実用化されつつあります。
※UIデジピータの仕様では、自動的にデジピートする局のコールサインに置き換わって再送信されます。よって、TNCのALIAS に WIDE1-1 などと設定し運用する方法はお勧めできません。

■デジピータを運用するための免許手続きは?

無線局の免許制度上の特別な手続きは必要ありません。無人運用や同一場所から複数の電波が発射されている状態についても特に違法ではありせん。
 ただ、工事設計上、パケット通信ができる設備が1セットしかないハズなのに同じコールサインでたくさんのデジが動いていたり(届出をおこなっていない送信機の利用)。移動局免許しかないのに、常置場所と移動先で同時に同じコールサインで電波を発射しているなどの場合は注意が必要です(固定局の場所に固定局として別に免許を得ておくと安心です)。また、異なる場所にそれぞれ同一コールサインでデジピータを立てる場合には、それぞれの場所に固定局の免許手続きを忘れずに(無線局免許手続規則第2条)。これらをウッカリ忘れると、面倒な事になる可能性はゼロではありませんので気おつけましょう。
 余談ですが、最近は路上における電波検問もおこなわれています。検問に遭遇した際、ちゃんと届け出をおこなっているトランシーバかどうかもチェックされる事がありますので、当然ながらクルマに付けているトランシーバも漏れなく工事設計書に記入し免許を得たうえで証票を貼っておくようにします。

APRSソフトウェア
UI-View32でUIデジを運用する

APRS用クライアントソフトの定番。UI-View32にはAPRS用のデジピータを運用する機能もついています。旧タスコ社製のTNCやTM-D710のTNCモード、アルインコのパケット通信対応無線機など、KISSモードに対応したTNCがある(または内蔵されているトランシーバ)とパソコンがあれば無改造でスグにでも稼働できます。
以下、すでにUI-View32をインストールして各トランシーバやTNCに接続し稼働できる状態であると仮定してハナシを進めます。

※UI-VIEW32を使わず、その他の方法でUIデジを構築する方法もあります。解り易い説明はこちら。また、TNCのALIASを WIDE1-1などに設定してBEACONコマンドとHIDコマンドをONにして運用する力技(^^;)もあります。

(1)TNCをKISSモードにする(Setup -> Comms Setup)


(2)シンボルやコールサインを設定する (SETUP -> Station Setup)

Beacon comment の 「/W1,R」 は WIDE1-1 と RALAY で動作するよという意味。日本では複数の周波数が使われているので、運用周波数を書いておくと親切。 ビーコンの送信タイミングについては、RF側にビーコンを出せば他のAPRS局に受信してもらえるし、IGATEで拾われるのであえてネット側にはビーコンを出さない設定(Internet = 0)がお勧め。30分に1回出すのが良いとされている。SSID (コールサインの後ろにつく数字) は -1〜-3 に設定する。なお、デジピータのシンボル(アイコン)は★印である。

(3)デジピート機能を有効にする (SETUP -> Digipeater Setup)


上記のように設定するとOK。Alias(es)はカンマで区切ることで、複数のエイリアス(ワード)を対象にデジが動作する。これは「TNCに付属しているデジ機能」にはない場合が多い機能で、上記の例の場合、WIDE1-1,RELAY,JQ1YDA のいずれかのデジパス指定が含まれるAPRSビーコンを受信した場合にデジピートがおこなわれる。このように設定することで、RELAYパラダイムでもNew n-nパラダイムでも対応できるのでぜひ上の図のような設定をお勧めしたい。もちろん、JQ1YDAの部分はご自身のコールを記入。ここまで設定すればデジが動作する。、あとは、手持ちのVX-8やD710などのトランシーバで試してみてほしい。出荷時からトランシーバのデジパス設定を変更していなければ、この設定で反応するはずだ。
 なお、上記の Sub Aliasの欄で、デジが反応(中継)する際に「置き換えられるコールサイン」を書く。ココは (2)で設定したコールサインにするか、JQ1YDA-1のようにSSIDを1〜3の間で設定するのが正しい。よって上記例ではJQ1YDAと書いている部分をJQ1YDA-1にするのが正しい設定。

※TKn-n について
これは、JAPRSXのサイト(http://aprs.xii.jp/aprs/)で提唱されていたエイリアス。ビーコンを出す側で、TK2-2等のようにデジパスを設定すると、東京都内のデジのみ限定して動作させる事ができると言われている。デフォルトではTRACEn-nと表示されているので、ここをTKなどの都道府県別ワードに変える(例:埼玉はST,神奈川はKN)と良い。変えるには、、ProgramFiles\Peak Systems\ ディレクトリの中にある UIVIEW32.ini の中の UITRACE = の右側を以下のように編集する必要がある。(ポイントは UITRACE= の右側)


Uiview32.ini

【RF側のトラフィックについて】

APRSはパケット通信を使って多くの移動局や固定局との間で繰り広げられる電波を利用した双方向のデータ伝送と、インターネットも利用して全世界規模で展開されているネットワークの要素がからむ非常に奥が深く複雑な通信ジャンルであり、チャレンジのし甲斐があるというものです。

周波数利用の観点からすれば、デジピータとIGATEの設置状況によっては以下のような現象が発生します。

デジピータをタクサンあげるとRF側の混雑による混信(パケットの衝突)が増える
 
…バケツリレーで配信するので同じ内容を何度も再送信する事になる。
 …1つのビーコンに対して複数のデジピータが反応してしまう
 …WIDE1-1デジが増えまくると、WIDE2-1デジには衝突したパケットしか聞こえず復調しずらくなる。
デジを遠慮してIGATE局ばかり増えても、ネットが見られない移動体にとっては片手落ち
 …IGATEが増えると、多くのIGATEから同じ内容がAPRSサーバー側に送信されネットトラフィックが増加する
 …IGATE局のサービスエリア内に居る局宛のメッセージがIGATEから送信(吐き出し)されるので、サービスエリアが
   重複するIGATEが多くあると、多くのIGATEから同じデータが一斉に送信されてしまう。かといってメッセージの吐き出し
   をやめると、メッセージがうまく届かなくなる場合がある。

それらの無駄や弊害を最低限にするために、I-GATEやデジを計画的に設置し、ユーザー側が指定するデジパスやデジ側で設定するエイリアスを適切に設定すべきと言われていますが、モービル局を基準にするのかハンディ機を基準にするのかで「計画」の内容も変わるわけで、ケータイ電話のように、端末の仕様がほぼ統一されているのとは訳が違うところに難しさがあります。そもそも、アマチュア局の「やってみたい」衝動を抑制する事にして、仮に抑制した(できた)としても、そこには「一部アマチュア局の遊び場と化し衰退するという」道を辿る可能性が高いと思われます。それは、JARLが運用している「レピータ」がすでに証明してくれています。

※デジピータの動作試験は、144.64MHz/144.66MHz以外をご利用いただくと安心です。
※以上は、独自に情報収集した内容と現在(2009年1月)の運用状況にもとづいて記述した説明です。間違いがございましたらご指摘いただければ幸いです。 

参考文献(サイト):
JM7MUU WIKI (APRSコーナー:「APRSデジピータ」記事)
VGX.net (解説記事:APRS/NAVITRA 新しいデジパスのパラダイム)
JAPRSX web (掲示板:「デジピータ・デジパスに関する話題」)
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