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VoIP無線 周波数の効率的な利用に向けての提案

  目次

金太郎飴状態とは?

主に都市部ではありますが、「同じ人の音声がいくもの周波数で聞こえる」といったような意見を耳にすることがあります。確かに、ロケーションが良い場所などでは、複数のノード局が同じ内容を送信している状況を受信することがあります。これを我々は「金太郎飴状態」と呼んでいます。「違法」とか「悪い事」ではないのですが、漠然と「もうちょっと何とかなればなぁ」と思ってしまう。そろそろ、この点を本格的に改善する試みをおこなってゆく必要があるのではないでしょうか?!

というのも、これはWiRESに限らずどのVoIP無線でも起こりうる現象で、特定のルームやコンファレンスへの接続が増えるに従い発生するようになります。ネットワークの世界では人気のコンテンツにアクセスが増えるのは必然です。しかも、アマチュア無線は様々な試行錯誤ができ、アマチュアゆえのムダや遠回りが許される世界であるはずですから、いきなり問題視するのも良くありません。だからといって、それに胡坐(あぐら)をかいていてはいげないという側面もあります。
 以上の件で、WiRESノード局運用者はそれらの副作用を軽減させる手法を試みる方向へと進みました。たとえば、ルームの分散化やノード局のマイクロセル化(ローパワー運用などによる狭域化)やルーム運営ルールなどの設定がそれです。しかし、ルームの分散化は自由な活動を制限する側面もあり、マイクロセル化を推進しても、局数の増加にともない、ロケーションの良い場所でワッチするとものすごい金太郎飴状態を体感できてしまうことになります。

金太郎飴を減らし、限られた周波数を効率的に利用する実験

以前、金太郎飴を避けようということで、複数のノード局でひとつの周波数を共用しようという試みをおこなったことがあります。トーンが異なるノード局を同じ周波数で運用するという方法です。しかしこれは、ノボリ(RF→ネット)が他のノード局のクダリ(ネット→RF)と混信して実用的ではないことが予想され、まさにそのような結果となり、断念せざるを得ませんでした。
 ただひとつやっていなかった実験は、ノード局の送・受信周波数をシフトさせ、複数のノード局でひとつの周波数(周波数ペア)を共用する方法です。 「特定のルーム」に接続することが常態化しているノード局はその「特定の」ルームに接続することが多いノード局同士協議し、誘いあって可能な限りひとつの周波数に集まり、周波数の消費(利用)を少なくするように工夫してみるのもひとつの方法ではないでしょうか。たとえば、5局のノード局が協力しあうだけで、単純に3つの周波数が空くことになります。

以下の写真はTM-V71を使って実際にWiRESノード局を稼動させている無線機です。送信周波数(下り)は438.50MHz、ノード局の受信周波数(上り)は438.35MHz、SNFMを利用しています。シフト幅は +150KHzに設定しています。

※右バンドを 438.50MHzにしてトーンデコーダ(DCS)を解除しているのは送信周波数の監視のためです。




VoIP無線はその運用形態から周波数を固定しがちな運用形態です。このような固定しがちな運用形態としては、パケット通信などのデータ通信やビーコン局(私設・公設)、衛星通信、レピータなど・・・VoIP無線に限らず複数な形態がありますが、VoIP無線は(現在のところ)周波数選択の自由度も高く、システム上の機能も日進月歩ですので、様々な工夫で周波数の効率的な利用をおこなうよう努めてゆくことを忘れないようにしなければならないと思います。

余談ですが、イギリスの連盟(RSGB)が定めたバンドプランには、VoIP無線(Internet Voice Gateway) 区分がかなり前(3年以上前)から存在しており、各バンドにおいて「飛び地状」にVoIP無線用の周波数が割り当てられています。

ノード局の管理の点でもメリットが

この方法を採用した場合、送信と受信の周波数が異なることから、監視が大変かと思ってしまうかもしれませんが、アップリンク(のぼり)の周波数で送信するのは比較的電波伝搬の範囲が狭い「ユーザー局」側です。アップリンク周波数の監視は事実上、ユーザー局が担います。
 ノード局側ではダウンリンク(送信周波数)の監視となりますが、このあたりはV&V・U&U機能がついている無線機などを使えば解決できます。もっとも、ユーザー局の「耳」がダウンリンク周波数に集まりますのでQRMの発生を「人」が認識できる機会も増えることでしょう。しかも、ループ現象の発生が抑えられるというメリットさえあります。

広域ノードも良いが、普通のノードも気兼ねなく建てよう!


VoIP無線の楽しさを知ると、ノード局の運用にもチャレンジしたくなってくるものです。ところが、そのための周波数は有限です。ぜひ多くの人がノード局運用にチャレンジできるよう効率的な周波数の利用に努める必要があります、それがより多くの人たちの興味を満足できる環境を実現します。しかも、 広域ノードをひとつ上げることと、複数のノード局でひとつの周波数を共用するのと客観的な周波数の利用実態は実質的には同じです。これはネットワーク系無線システムの大きなメリットともいえます。

利用効率化実験における実際のノード局の設定とアクセス方法

・送信周波数と受信周波数にシフト幅をもうける

シフト幅 150KHz=区分幅300KHz

レピータとは異なり"ブロック障害(抑圧現象)"はありませんので、シフト幅はハッキリいって何でも良いのですが、144MHzでは100KHz、50、430MHz帯では150KHzが良いのではないでしょうか。というのも、アマチュア無線の周波数利用区分の改訂案では2mでは200KHz、50MHz帯・430MHz帯・1.2GHz帯では300KHzのスパンとなっています。もし本当にそうなった場合には、アマチュアバンド使用区分の原則的な考え方によりVoIP無線はその範囲内での動作に限定されることが予想されることから、アップリンクもダウンリンクもその範囲内に収めなければなりません。よって、単純に区分幅の1/2と考えたのです。

ハンディ機やモービル機のレピータアクセス機能で設定できるレピータ・シフト幅は50KHz毎であるケースが多く、50KHzの倍数のシフト幅を利用するのが便利です。そう考えるとシフト幅は区分幅の1/2を根拠として「50KHz」・「100KHz」・「150KHz」のいずれかに設定せざるを得ません。

運用周波数に関しては、周波数利用区分の改訂がどうにもなっていない現状では、あくまでも周波数を効率的に利用するための「実験・研究」との位置づけで、438MHz台にダウンリンクとアップリンク周波数を設定するのが妥当ではないかと思います。

シフト幅を 150KHzに設定(統一)した場合の 300KHz帯域における利用効率化の例 
※仮に 51.70〜52.00MHz  438.70〜438.90MHz とした場合の周波数ペア例


+シフト系列
クダリ ノボリ
51.70 51.85
51.72 51.87
51.74 51.89
51.76 51.91
51.78 51.93
51.80 51.95
51.82 51.97
51.84 51.99
−シフト系列
クダリ ノボリ
51.86 51.71
51.88 51.73
51.90 51.75
51.92 51.77
51.94 51.79
51.96 51.81
51.98 51.83
52.00 51.85
+シフト系列
クダリ ノボリ
438.70 438.85
438.72 438.87
438.74 438.89
438.76 438.91
438.78 438.93
438.80 438.95
438.82 438.97
438.84 438.99
−シフト系列
クダリ ノボリ
438.86 438.71
438.88 438.73
438.90 438.75
438.92 438.77
438.94 438.79
438.96 438.81
438.98 438.83
439.00 438.85

・クダリはノード局の送信周波数(ネット→RF)。ノボリはノード局の受信周波数(RF→ネット)。
・シフト系列はユーザー局側から見た周波数シフトの方向です。
・ノボリの周波数が奇数となる場合はスーパーナローFMの利用が望ましいでしょう。
・なぜこんなに複雑なペアにするかというと、伝播状況としては「ノボリ<クダリ」という関係が
 あるためです。ノボリの周波数を一定範囲に集めると「いつも静かな周波数」が発生しレピー
 タ周波数(特に434MHz台)の二の舞となります。

・ノードアクセス局側の無線機と設定

ハンディ機やモービル機の場合レピータシフト機能やデュプレックス機能を流用(利用)します。デュアルバンド機などで V&V U&U 機能がある無線機の場合は、ノボリとクダリの周波数を同時ワッチするようにします。レピータシフト機能やシフト幅の設定は古い無線機でもほとんどの機種が対応しています。

設定例:
@セットモードでレピータSHIFT周波数を設定(例 150KHz)
Aレピータ機能をONにしてシフト方向を設定 (RPT-またはRPT+)
BトーンまたはDCS周波数を設定(ノード局が指定したもの)
アイコム系の場合、CTCSS TONEとRPT TONEで別に設定できるものがあるので注意。

周波数利用効率化実験参加ノード局の現状

現在、東京都内を中心に6局が周波数利用効率化実験をおこなっています。具体的な周波数ペアに関してはJQ1YDA(5974)を"GET INFO"して出てくる情報をご覧ください。すでに、5つの周波数において金太郎飴状態が解消し効果をあげています。アクセス状況も普段と変わらず良好で、さしあたって大きな障害は発生しておりません。さらに参加ノード局を募集しておりますので実験に協力いただけそうなかた、いらっしゃいましたら、参加していただけませんか?(さすがにアクセスエリアが競合が顕著なノード局同士の共存は無理ですが・・・)



あとがき:矛盾を含み逼迫するVUHF帯のアマチュア無線の周波数

アマチュア無線局が減っているというデータが出ているそうですが、今やVUHF帯のアマチュア無線の周波数は上から下まで、はたまたアマチュアバンドから外れた周波数まで、無免許と思われる運用者やアマチュア業務以外の通信(業務無線代わりとしての利用)が頻繁におこなわれており、結果的に新参者(新しいモードや運用形態での運用者など)が利用できる周波数は限られてしまっています。そもそも、データ上は局数が減少していても、無免許ゆえに局数にカウントされない(データに含まれない)無線局が多数存在しているのですからたまりません。街中を走る土砂運搬車のほとんどにモービルホイップがついている昨今、公開されている数字に矛盾を感じてあたり前でしょう。
 そのような劣悪な環境のもと、VoIP無線の登場で、アマチュアバンドにコールサインが聞こえる電波が増え一部で摩擦が散見されるという何とも不条理な状態に至っています。
 VoIP無線を楽しむ人たちは、VoIP無線だけを楽しんでいるという方は少なく、アマチュア無線の楽しみのひとつ、WiRESやEchoLinkなどという「新しいバンド」が出現しそれを使っているという雰囲気です。一方、これらのVoIPモードに興味を持ちアマチュア無線を始めるネット世代の若者や20〜30年前にアマチュア無線を楽しんでいたカムバックハム、学生や子供達のネットワークも登場しだしています。こんなの無線じゃない、と言うのも結構ですが、その「無線」とやらに執着した結果、アマチュア無線局の局数が減少し、その隙をついて不法局や違法局が増加しているという現状をしっかりと認識してもらいたいものです。

しかも、最近の行政などの動きを観察していると、業務無線以外の個人ユース系の無線局に関しては全て「アマチュア無線」や「特定小電力などのフリーライセンス無線」に集約される方向で動いているような印象をうけます。気に入らないからといって、文句を言ったり他のアマチュアの足の引っ張るような言動をする暇があるのなら、もうちょっと自らのアクティビティアップなどを考えないと、その「無線じゃない」などとおっしゃる人たちが理想とする「アマチュア無線」というものがますます隅に追いやられてゆく事でしょう。特にVUHF帯における国際的な縛りは「衛星区分」ぐらいで、アマチュアバンドを狭めようが広げようが無くそうが、それはそれぞれの国である程度自由に定められます。

かなり脱線する例えですが、他人の土地の上に勝手に建物などを建てて一定期間その土地を占有するとその土地は「勝手に建物を建てた人」の物になります→民法162条。「権利の上に眠る者は保護されない」=「ニーズが無いのに権利を認め続けるのは合理的ではない」、というのが法律や行政の考え方になるケースもある事を忘れてはならないのではないでしょうか。

最後に、余談になりますが、JARLのレピータもナロー化を推進し、アップリンク・ダウンリンク逆転方式やトーン周波数の多様化を積極的に推進して、より多くのレピータ局が置局できるようにして、活性化しよう!と意見しましたが、地域格差の点や利便性を損なうという意見が台頭し奇特な意見として扱われたようです。アマチュアは先進的であるはずなのに・・・レピータは何十年の間ほとんど変化がないシステムです。その点、VoIPはまだまだ実験できるフィールドがたくさんあります。ぜひアマチュアらしく試行錯誤してみようではありませんか!
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