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VoIP無線ノード運用の法的な位置づけ等について

平成15年11月15日(初版)
平成16年1月12日(改訂2版)
平成16年1月18日(改訂4版)
平成17年11月19日(改訂5版)


●VoIPノード局(WiRES,EchoLink,eQSO,IRLP)の法的な位置づけ

アマチュア無線設備を公衆網に接続して運用する事は、フォーンパッチの解禁を皮切りに、すでに昔から認められています。最近ではこれらの定めを根拠に従来の電話網だけではなくインターネットと無線設備の接続もおこなわれるようになり、アマチュア無線がより多彩でより高度な通信がおこなえる分野へと大きく発展しています。
 また、災害発生時の非常通信などにおいても、多面的にさまざまな情報が送れるなど、アマチュア無線が従来に増して社会貢献に役立つものと期待されています。

(1)いわゆるVoIP無線ノード局

VoIP無線(WiRES、IRLP、EchoLink、eQSO)のノード局は法的には「公衆網接続局」で、審査基準の形態1'に例示されるインターネットにアクセス形態の無線局です。
総務省が示した判断基準はこちら

現在、インターネット上ではインターネットWEBサイトのように画像・音声・データなど、様々な情報(コンテンツ)を蓄積してやりとりする事ができるようになった他、リアルタイムに音声や画像などを伝送できるしくみとしても急速に発展してきました。これらを一定の制限のもとにアマチュア無線の回線を使っても伝送できるようにしたのが、公衆網接続、とりわけ無線設備のインターネット接続です。
 インターネットに接続したアマチュア無線局は、無線回線を通じて送受信した音声やデータなどをインターネット網に対して送受信する事ができます。但し、免許状に記載された通信の目的または通信事項の範囲を超える運用(アマチュア業務を逸脱する運用)はできません。さらに、このシステムについて事業性がある場合には電気通信事業法の罰則規定により処罰の対象となります。
 なお、公衆網接続局の開局・運用にあたっては特別な申請や届出は必要ありません。利用する無線設備がアマチュア無線局として免許を受けていればOKですので、気軽に公衆網接続局を運用する事ができます。




(↑)図1 総務省審査基準の抜粋
上記の【形態1】でデーターベース等へのアクセス。【形態1】'で「インターネット電話
と明記し、音声通信も想定して適法とされています。

(↑)上記A局、B局は異なった局である事に注意。局免許はA局・B局独立させておいたほうが良いと言われている。B局を社団局化する方法もあるが、A局とB局が同じコールサインでの運用したい場合は、B局を固定局、A局を移動局で免許を得るなどの方法もある。(Tnx.JJ2RON)

・ノード局は他人の依頼による通信をおこなっているのか?!

上記図1を見るとノード局(B局)は、A局がインターネットにアクセスして音声で通話したりデータをやりとりするために、電波を発射しあう間柄になります。実は電波法では、アマチュア局は他人の依頼による通信はおこなってはならないとされていますのでこの点に触れしまうのでは?と思ってしまうかもしれませんが、実は、公衆網接続の場合、
「B局免許人」がA局が自局(B局)を通じてインターネットにアクセスする事について個人的な興味があるという事を要件として適法と判断されます。ようは当該アマチュア局が電波を発射する動機そのものに重点を置いていると思われます。
 要するに、B局が他局に使われる事(=ノード局を運用して電波を発射すること)をB局自身がやりたくてやっていれば良いのです。よって、アマチュア局なら誰でも使って良いよ、という位置づけのノード局は運用周波数などをしっかりと公表しているはずです。(注: 公表の義務はありません)

・法律上の通信の相手方・電波形式、従事者資格

 電波法上は、電波を(互いに)送受信する位置づけにあるものが通信の当事者(自局・相手局)という解釈になります。上記図1によれば、A局とB局という事です。例えば、レピータ局の場合でも、法律上は、レピータ局と一般アマチュア局が通信の当事者と表現されています。
 一方、実際の通信の現場では、通信をおこなう無線従事者同士(エンドユーザー同士)が通信できた事実をもって交信が成立。また交信証(QSL)の発行要件が満たされる事になっています。
 さて、ここで注意すべきは無線従事者の資格とバンドプラン(区分)です。例えば、ノード局の免許人が4アマ局の場合、インターネット側からCWトーンが流れてきた場合どうなるのでしょう?実は公衆網側から来た音声データはマイク端子やデータ端子のAF系端子に接続している場合は、CWであろうが何であろうが、B局においては、電話用のAF信号であると見做すと考えられています。一方、B局に電鍵操作回路付き低周波発生装置やパケット通信装置があり、それらの付加装置にインターネット回線から来た内容を渡し伝送する場合などはそれ相当の免許が必要となり、実際の運用はそれらの電波形式の電波の発射が許される区分内でおこなう必要があると考えられています。ただ、現状としてはVoIP無線(公衆網接続局)は全電波形式の割り当て内での運用が多く、問題にはなっていません。

・無線設備の遠隔操作とは決定的に異なります

 インターネットまたは専用線を使った無線設備の遠隔操作システムは、遠隔操作所および送信所が一体となってひとつの無線局を構成するものであり、事実上、遠隔操作所と送信所は同じ局です。それゆえ、このような設備を使う場合には総務省への届出が必要となるばかりでなく、いくつかの要件をクリアするようなシステムを構築しなければ、遠隔操作の届けが受理されません。(くわしくはこちら)
 よく勘違いしてしまうのが、リアルタイムに音声を伝送してコミュニケーションするVoIP無線において、一方の局がパソコンから直接音声を入出力している場合です。これは一見してパソコンからQRVする局がインターネットを通じてノード局を遠隔操作しているようにも思えてしまいがちですが、この場合の当事者は独立した3局。(A)パソコンからQRVする局。(B)ノード局。(C)ノード局を通じて通話等をおこなう局。これら3者の連携により交信をおこなっている事になり、遠隔操作とは異なるものとされています。

・公衆網接続局の注意点/基本事項

[説明]

「公衆網接続局の通信の相手方は無線従事者であること」(電波法)

 通話する相手方は無線従事者の資格が必要です。ただし、例外があり、審査基準の形態1の図D項において「インターネットを通じて情報をストア&フォワードする場合(一度電子的に蓄積して送信するもの/掲示板やデータベースのコンテンツ等)の内容を送受する場合については無線従事者資格は不要という記述がありますので、解釈のしかたによっては、通常のインターネットサイトへのアクセスが可能と読めます。(もちろんアマチュア無線回線側からインターネットにアクセスする側は無線従事者でなければならない)

「第三者通信は絶対に禁止です」(電波法)

 海外では「他人の依頼による通信」=「第三者による通話」が許されている場合もあります、要するに相手が無線従事者でない場合もありえるという事で、このような第三者の通話の状態になった局を相手方として交信してはならないので注意が必要です。
 このあたりの解釈は難しく現状と照らし合わせてどうなのかわからない部分もありますが、現状はネットワーク利用者の自主規制において担保されている状態と思われます。

・ノード局(公衆網接続局)の運用上の配慮について(JARLの運用指針抜粋)

「周波数(ノード局を稼動させる周波数等)を選択する際は、他のアマチュア局への配慮が必要です。混雑した周波数帯や呼出し周波数等の使用は避けてください。」

[説明]

周波数の独占という言葉が独り歩きしていますが、これはモラルの問題です。周波数の独占という定義は法的にはありません。但し、VoIPノードが運用されているからといって他局の通信を排除したりする事は絶対におこなってはなりません。逆に昔からこの周波数を俺達は使っているからドケという事も問題であります。もちろん、「ドケ」と言われたからといって全面的に従う必要はありませんが、トラブル防止の為にお互いに配慮する事は必要不可欠です。問題が発生した場合には話し合いで解決する事が社会の常識でありましょう。
 トラブルを誘発する行為やトラブルが発生する可能性が高い行為は厳に慎むべきであります。VoIP無線ノードを設置する場合は、周波数利用の実態や現状をしっかりと調べ、特にメインチャンネル近く、慣習として不特定多数の局が入れ替わり立ち代り利用する機会が多い周波数帯(例: 432.22〜433.98MHz)はトラブル防止の為に公衆網接続局の利用は避けるべきですが、もし、テーマをもってノード局をメインチャンネル付近にQRVさせる場合は、充分すぎる程の監視と、譲り合いの精神をもって利用局への説明をおこなう必要があると考えられます。
 また、トーンスケルチの利用も増えています。これは、公衆網接続局を意図しない局の通話を安易に公衆網に流してしまわないようにするための自主規制の側面もありますが、適切な利用を図れば周波数の有効利用にもつながります。さらに、トーンスケルチの機能は現在発売されるほとんどの無線機がデフォルトで対応しているといっても過言ではありませんし、トーン周波数を調べる機能も併設されているはずです。
 実験用周波数の割り当てであれば、10KHz台が奇数である周波数(いわゆるハーフチャンネル)の利用も実験・研究すべきであると考えます。ハーフチャンネルの利用には現在のFMモードより帯域が狭い(スーパー)ナローFMの採用がポイントとなりますが、それを意識した無線機はすでに市場に多く出回っています。(スーパーナローFM対応機の例:IC-706MK2G,FT-7800,8800,8900 FT-847・VX-5・VX-7等) なお、
スーパーナローFMといっても通常帯域の局(20KHzステップを前提とした局)へのQRMは多少なりとも発生しますので、変調レベルを下げて帯域の広がりを極力低く抑えたり、注意深く隣接する周波数を調べるなどの配慮が必要だと思われます。

・参考 VoIP無線で良く使われている周波数

50MHz帯  51.60〜51.98(慣習)
50MHz帯  52.92〜53.99MHz(実験研究用周波数)
144MHz帯 145.66〜145.78MHz(実験研究用周波数)
430MHz帯 431.42〜431.70MHz(慣習)
430MHz帯 438.02〜438.98MHz(実験研究用周波数)
1.2GHz帯 1297.72〜1299.98MHz(実験研究用周波数)z

・VoIP無線ノード局の管理について(JARLの運用指針抜粋と補足)

「局の免許人は、公衆回線への接続および切断が直ちにおこなえる状態にあり、かつ電波法令に違反しないように無線局を管理していなければなりません。」(JARLの指針と審査基準)

[説明]
 ノード局を適切に監視し、「送信しっぱなしの事態」や「公衆網接続局を利用しているという意識がない」局の音声を安易に公衆網に流すような事がないように
配慮する事が要求されています。公衆回線への接続切断はリモートによるものや無線によるもの等の方法に特段の定めはありませんので、無線経由やインターネットの遠隔操作の技術も応用し適切な監視と運用をおこなうのもひとつの方法です。なお、EchoLinkやWiRESのソフトウェアを遠隔操作する場合は、無線機の遠隔操作にはあたりません。
 レピータ局の場合、通常の監視・管理行為とここのレピータは「公衆網に接続しているレピータだよ」などの告知を適切におこなう事によって、これらの要件はクリアできる事と考えます。 なお、「直ちに」の意味は解釈が分かれるようですが、対処の必要性を感じた時にリモートなりDTMFなりでスグに切断できる事が要件となっていますし、TOT(いわゆるウォッチドック回路)の活用により送信しっぱなしのリスクは皆無になりますのでハード的に管理負担を軽減する手法も積極的に採用すべきと考えます。

(2)レピータ局の場合

レピータ局はJARLが免許人であり、管理団体がJARLより管理を受託して運用されていることから、
管理者(管理団体)と協議の上、VoIP無線ノード局をレピータにQRVさせる事は従来から可能です。

平成16年1月13日よりレピータ局本体を公衆網に接続する事ができるようになりました

関係条文抜粋(審査基準)

別表1 無線局の局種別審査基準
 第15アマチュア局、
  14 レピータ局の審査は次の基準によりおこなう
   (5)公衆網に接続するものにあっては、次の事項が確認できるものであること。
     ア 電気通信事業者回線との接続および切断をただちに行うことができる状態であること。
     イ 無線設備をただちに操作できる状態であること

[説明]
この行為に関しては、レピータ局を公衆網に接続する行為と位置づけられ、無線局の局種別審査基準の改正により、レピータ局自身が公衆網に接続する形態が明示され、事実上解禁になりました。
 レピータ本体を公衆網に接続する事ができるというのは、レピータ局とWiRES-IIコントローラーやVoIP無線用ソフトウェアを導入しインターネットとつながっているパソコンの音声入出力をレピータ装置に直接接続できるという事です。管理行為に関しては、上記ノード局の件と同様に、送信しっぱなしの事態や事故に対処できるよう適切に監視し、パソコンのリモートなりDTMF信号などでリンクの切断やリモコン局や遠隔操作による無線設備の操作ができれば良いという事になります。もちろん、公衆網接続装置にウオッチドックなどを付加する事も積極的におこないリスクと管理負担の軽減を目指しましょう。

・レピータとの接続に関する手続きについて(JARL)

 レピータ局の公衆網接続は(一般)アマチュア局の公衆網接続局と同様の扱い手順で可能となっています。要するに、総務省への変更手続きや申請は不要です。ただし、レピータの免許人であるJARLのレピータ局の運用に関する管理行為の一環として、JARL側でレピータに何を接続するのか把握する必要があり、レピータ管理団体からJARLに対して事前に「公衆網接続する旨」届出をおこなう事になります。届出ですので申請と許可の関係ではありません。なお、以下の点は任意事項ですが積極的におこなったほうが良いと思います。

・レピータ局のユーザーにWiRESやEchoLinkが接続またはリンクされている事をちゃんと告知すること
・管理団体(構成員の間)でもしっかりと理解を得たり協議したりすること

ちなみに、以下に出てくるアシスト局では、インターネットでリンク状況を告知する事を審査基準で義務付けてあります。

・アシスト局

 アシスト局は、D-Starプロジェクトにおける、レピータとレピータ間を無線回線で接続する専門局のことです。一般のアマチュア局と通信する事はできません。レピータは2局を上限として一体化(常時接続)する事ができます。

(2)レピータ接続に関しての運用上の配慮

・EchoLink、eQSOのレピータ上での運用(EchoLink,eQSOネットワークシステムでのローカル・ルール)

 EchoLinkのマニュアルによると、レピータ局にQRVするノード局はレピータとの直接接続・リンクを含めて -R 指定にする事になっています。eQSOも同様で、JQ1YDA-R のようにコールサインを指定する事になります。
 eQSOはSWL局の利用も認められており、公衆網接続局で定める「相手方が無線従事者である事」が必ずしも担保されているシステムとはいえませんが、パスワード付きのサーバーを立てたりSWL禁止設定にする事で、リスクを回避する事ができます。

・レピータアクセスノードについて

 レピータにアクセスしているノード局(要するにレピータに直接接続していない、レピータユーザーの立場にあるノード局)同士がリンクすると、レピータ局のハングアップタイム(要するにキャリアの尻尾)の影響を受けて、必ずと言って良いほど混乱します。VoIPノード局がQRVするレピータ局はハングアップタイムをゼロに設定しておく事が望ましいといえます。なお、レピータ本体にノード設備を接続したものはハングアップタイムの意識は不要ですので、可能な限りレピータ装置自信を公衆網に接続したほうが良いと思われます。(さすがに山の上のレピータにインターネット回線をつなぐのは至難の業です。そのためにD-Starシステムではアシスト局が登場したといっても過言ではないでしょう)

(4)アマチュア無線に関する法解釈について

 アマチュア無線局に関する法規制は秩序を維持する最低限のもので良い、その中で自由にやってくれ!これが法の趣旨だと思われます。今回のVoIP無線の位置づけにしろ、総務省は現行法を柔軟に運用し、JARLもリーダシップをとってくれているという印象をうけ、とても頼もしく感じています。
 行政へのアプローチは、「これはダメじゃないのか?取り締まれ」「白黒はっきりさせる」というよりも「これは微妙だが、うまくいくようにするのはどうしたら良いのだろうか」というアプローチが必要だと思われますが、残念ながらOMと呼ばれる人たちの中には、自分達の趣味趣向に合わないというだけで、ダメダメ論を全面に出してくる方も少なくありません。今回の件は、解釈によってはOKにもNGにもなるものをしっかりと「OK」まで持っていた事例であり、JARLやその他関係者の努力が素晴らしい成果をあげたと評価すべきでしょう。
 ただ、現在はVoIPの運用形態と従来の運用形態の局との間での摩擦が散見され、バンド内で住み分けをしなければ全体の秩序が保たれないのではいかという危惧感が漂っています。

以上、参考までにJARL等への取材や複数の関係筋からの情報に基づいてまとめみました。
de js1cyi Hiroshi Yoshizawa 平成17年11月現在の情報に基づく 
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