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不法局の現状と対策

無線設備を設置したり操作したりするには無線従事者の資格とび無線局の免許が必要です。
 アマチュア無線機器は安価でかつ簡易に入手可能なことから、不法市民ラジオ(CB)、不法パーソナル無線の代わりに、この機器を使用した不法局が多数出現しています。(←総通局の談)
 不法アマチュア無線局は、アマチュアバンド内で免許をとらずに開設(不法開設)、運用するものから、アマチュアバンド外でも送受信できるよう改造し、アマチュアバンド外の周波数を占有して使用している者も居ます

もちろん、正規局のふりをして運用している者や、不法局グループの中に免許を持っている局がいて不法運用をほう助しているケースもあるようです。

こんな状況ですが、不法局を野放しにしないための制度があり、以下のとおりとなっています。

電波法第80条

第80条とは、「電波法に沿わない無線局の報告義務」を無線従事者に義務づけている条文です。一応、不法無線局を発見したら、総務省に報告するべきと定めています。
 
 報告書様式はこちら

・報告すべき違・不法局

電波法令を守らない無線局が全て対象になると判断できますので、コールサインを言わない局や使用区別(バンドプラン)を守らない運用者は報告対象となり得ます。

報告書記入のためのアイデア

80条報告書には不法局の名義を記入する項目があります。不法局がトラックやダンプなどの場合、自動車のナンバを報告すれば、OKですなお、会社などが組織的に不法運用をおこなっていた場合には以下の条文も適用される場合があります。

電波法第114条(違反関係者規定)
第114条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従事者が、その法人又は業務に関し、第110条及び第113条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても各本状の罰金刑を科する。

無線機を設置しただけでも罪

次に、電波を出していることを証明しなければならないかについてですが、答えはNOです。実際に運用していなくても、車両に無線機を取り付け、電波が出せる状態(マイクを外していても車内を検索しマイクが出てくればダメ)で不法局としての要件を満たすのが通説です。


不法・違法無線局についてさらに詳しく知りたい場合には こちら にも記載があります。(Wikipedia)

実例 平成15年2月某日土曜日午後2時

以下に続く写真は東京都世田谷区、東名高速用賀インター近くの見晴らしの良い場所で430MHz帯のアマチュア無線用周波数をスコープしたものである。
 本来は存在するはずのない電波(不法局の電波)が多数存在する。なぜ不法局とわかるかというと、免許取得者相当の知識がある人たちはこれらの周波数でこのような電波は出さない上、そのような電波を発射すること自体、違法であるからです。

↓430.00〜431.00MHz SSB,CW用周波数
SSBやCWはFMより遠距離通信に適した電波形式であるが、不法局が混信しまともに通話できる状態ではない。なお、不法局はSSBやCWという電波型式すら知らないようである。


↓434.00〜435.00MHz 中継局用周波数
アマチュア無線中継局用の周波数で不法局が通話する為、中継局が使い物にならない。


↓435.00〜438.00MHz 衛星通信用周波数
 各国がタイマイを投じて打ち上げた通信衛星の微弱な宇宙からの電波もかき消され、衛星通信なんてできる状態ではない。もちろん、不法局は通信衛星や微弱な宇宙からの電波の存在すら知らない。技術大国日本とは名ばかりである。特に435MHz台を使っている衛星は多い。


目視による調査

 電波の上での確認のほか、大型車の通行が多い川崎市を南北に結ぶ多摩沿線道路上、平日の昼間、目視で調査したところ、白ナンバーの土砂運搬車両のうち10台中9台の割合で アマチュア局用のアンテナ(モービルホイップ)が設置されている状態。さらに430MHz帯では5局以上の至近距離での電波の発射が確認できました。(もちろんFMモードでの電波が許されない周波数帯) 


なぜ不法局対策は進まないの?

 行政側では電波監視の設備などの整備が着々と進んでいますが、ここ数十年来、不法局や違法局は一向に減る気配がありません。正直、もう手に負えない状態になっているものかと察しがつきます。上記の調査の結果、首都圏では幹線道路を走る土砂運搬車のほとんどにアマチュア無線用のアンテナがついています。ついていない車両が珍しいくらい。この人たち全員が法の要件を満たす免許を持っているかどうかについては察しがつくでしょう。
 現在は、業界団体などに加入している法人の運送会社を中心に「無線禁止が一般的」になっているそうです。
 こんな状況を知ってか知らずか、行政サイドでは「アマチュア局数は減少した、混信の可能性も低い」という意見が台頭しているようです。会議室で配られる資料の数字を見れば確かにそうなのかもしれません(=免許を得てないから数字にも現れない)。ところが、現場では免許を持たず運用していると思われる局とそれらの運用を幇助(ほうじょ)しているかのような局が増加し、平日昼間に至っては非常に混雑しています。要するに会議室の資料とはかけ離れた、泥沼のような世界がそこに展開されているのです。

 以下の写真は東京都千代田区にある関東総合通信局監視部の様子です。実はこの部屋、写真に映っている部分は部屋の半分で残り半分はほとんど使われていません(引っ越したばかりですので、さらに卓を増やすことも想定されているのかもしれません)。デューラスも見えますが、5人の係官が座れば満席。現在は業務無線系の申告処理でせいいっぱいという印象をうけます。ただ、各地にあるセンサ局をリモート制御できたりスケジューリングによる自動監視が可能だったりと、システムは進化していますから、人数だけがすべてではないとは思いますが...(HFの監視部は三浦半島にあります)



 これらの監視の費用は受益者負担ということで電波利用料が使われていると発表されていますが、ご存知のとおりアマチュア局は\300/年に下がりました。満足に受益できない環境で\500の電波利用料を賦課する事は不適切と感じたから、という判断なのでしょうか?電波利用料の使途についての問題も露呈しましたが、今の状態ではマッサージチェアを買いたくなる気持ちも解ります。もっとも、現場の担当官の疲労はマッサージチェアごときでは癒されないでしょう。制度は疲弊し担当官は疲労。最悪です。
 一方で、以前、総合通信局の人とお会いした時の雑談の中で、監視体制を充実しアマチュアのほうもガンガンやってくれるなら、電波利用料が今の10倍位になってもいいんじゃないですか?と言った事もありました。さらに、電波を実際に利用している全員からキッチリ取れば相当の収入増になるんじゃないかと。その収入を機材や「人」にたっぷり使っていただき、監視体制をさらに強化していただければ良いのになぁと思います。

 いずれにせよ、ここまで増えてしまった不法局・違法局に対抗するには、今の監視やJARLの監査指導委員ではどう考えても無理だと思います。多勢に無勢。支部単位で一台程度のガイダンス局を導入しても、それを平日昼間や深夜に操作する人が居るのかも疑問(そもそも、その電波を聞いたことなんてほとんどない)。いくらがんばっても効果があがらん不法局・違法局対策。総通局の現場担当者は貧乏クジを引いたと思っているに違いありません(想像)。

 今後もパーソナル無線の廃止や不法CBの取締まりが進むにつれ、このままの状態が続けば、不法局や違法局がアマチュアバンドにどんどん押し寄せ、アマチュアバンドがますますスラム化してゆく事でしょう。

↑不法CB無線機の例(行政当局が没収した実物)
通常はこの弁当箱みたいな無線機にリニアアンプをつけて100W〜数千Wの出力で運用するらしい。トラックなどに積載され使われていることがほとんどなので、沿道の住居や事務所のテレビやラジオ、近くを走行するクルマのラジオに受信障害が発生する事がある。ときには、店舗の自動ドアが勝手に開いたり、ストーブが勝手に発火したり、インターフォンが勝手に鳴ったり、パソコンがハングアップしたりという事例もあるそうだ。詳しくはこちら 違法パーソナル無線はこちら

↑ネット通販やネットオークションなどで売られている海外向けフリーライセンストランシーバ(ミッドランド社製)。行政当局に没収された実物なので、摘発された証でもある。詳しくはこちら

 これがICTやらユビキタスで世界をリードする日本を目指すと華々しく唄ってる裏の部分です。基本となる電波利用環境が異常な状態では、まともな電波利用、そして無線技術の振興なんて無理でしょう。
 子どもたちや学生の理科離れに加え、まれに無線技術に興味をった若い人がいたとしてもこの現実を知ってやる気が起こるでしょうか?144/430MHz帯は今となってはエントリーバンドです。このままの状況が続けば、V/UHFのアマチュアバンドは不法CBと同じような雰囲気になってゆくでしょうし、事実、そのような兆候は情報として入ってくるようになりました。最後の砦である行政サイドに何とかがんばってほしいものです。


総務省の電波監視施設
電波監視の中枢となる、関東総合通信局の電波監視室。部屋はこの2倍の広さがある。監視端末に座れる係員は5人。 不法無線局などに警告を発信する設備。違法(不法)パーソナル無線を運用している局に警告を発信していた。アマチュアバンドについてはJARLのガイダンス局があるが...
各地のセンサー局が、ターゲットとなる不法無線局の方向を探知したデータを集約して表示している画面。この画面に出ているセンサー局の数は6局程。 デューラスの操作卓。これが関東にある最新のもの。
各地のセンサー局とのデータを送受信し情報処理するためのコンピュータ。中小企業のコンピュータルーム程度の規模であるが、このマシンに傍受した音声や方位方角のデータ蓄積され、後日、証拠として採用される。 FAX機や現場で活動する際に使用する業務用無線機器も用意されていた。
金沢の地方局。10帖ほどの小部屋で北陸エリア全域を監視している。地方局は2〜0エリアまで、9局ある。 少人数で申告や苦情に対応しなければならない。、監視する現場の担当官も大変だろう。大変だが頑張ってほしい。

不法局探索車

車内。固定デユーラスと同等の機能をもつほか、センサー局としての役割も担う。

外観:屋根と内張りの間に方探アンテナが設置されている。

↑リア側から臨む探索車。外観はごく普通のアマチュア無線家の車と一緒。
←探索車のパソコンに表示されている内容。赤いラインが固定探索局からの方位を示す。このラインが交わるあたりに調査中の対象不法(違法)局が居るということになる。このラインにを参考に探索車を向けて、不法局の特定・採証活動をおこなうらしい。精度は数メートル単位と思われる。


可搬型デューラス (DEURAS-P)

↑これで各地のセンサー局を操作し、方探結果などをリアルタイムに地図上にプロットできる。機能的には、デューラスMから受信部を省略したものに見える。

JARLのガイダンス局のシステム

JARLの監査指導委員が不法無線局などに警告電文を電波で送信する設備。警告内容や警告履歴データは総通局にインターネット経由で伝送できる。活動データはこちら(古い)

電波発射源推定システム
↑CCDカメラで撮影した画像の上に「電波の発射源」や、その電波のスペクトラムを表示するシステム。



壁や天井裏に隠された不法なケータイ電話中継機やケータイジャマーの発見に威力を発揮する。低い周波数への対応が進めば盗聴器などの発見も可能となるだろう。

最後に一言。以下は某総合通信局の監視担当官のアドバイスである。不法無線局対策については「申告によるものと」「警察と合同での取り締まり」がほとんど。不法無線局を申告する際は、(不法局の)車両のナンバーまで教えてくれるとありがたい。という事だそうだ。警察と合同のそれは、警察側から総務省サイドへのアプローチがないとなかなか難しいうえに、検問を張っても摘発できるのは検問を張った直後の数局のみ。グループ化が進む不法局は一局捕まった段階で、ケータイ電話などで情報が回り、すべて迂回してしまうらしい。そんな状態ではあるが、下手な鉄砲数打ちゃ当たる、のごとく、あきらめずに頑張ってほしい。

※当記事は、CQ Ham Radio誌、子供の科学誌の記事を執筆した際の取材資料に基づき、誌面に掲載しきれなかった内容と文章を掲載したものです。
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