WiRES-IIの公式掲示板に、「4年前から取りざたされているアマチュアバンド使用区分の改訂についての検討が反故(ほご)になった」との書き込みがありますが、そのような情報は平成20年3月上旬においてこちらには届いておらず、情報ソースもJARL会員しか見られない公開先が限定された議事録に基づくものと思慮されますので、それについての言及は避け(=差しさわりない範囲)、今回は現在公開されている情報などに基づきこれらアマチュアバンド使用区分についていちVoIP無線ユーザーの視点から雑感を書いてみたいと思います。
アマチュアバンド使用区分の検討プロセスについて
アマチュア無線用周波数の使用区分ついては総務省が告示で定めています。告示は上位条文(運用規則258条2)にて遵守義務が課されており、ルールやガイドラインと異なる法律条文の一部としての効力があります。これらを改訂するケースとしては総務省がJARLからの働きかけで改訂などの作業が始まるのが一般的のようです。この作業の見込みなどが立つとJARLサイドで周波数委員会が動き出し細かい内容はそこで揉まれます。構成委員はその時々の検討内容に沿った人が選定されたりもするようで、現在はHFやマイクロ波について知識が豊富な人たちもメンバーに含まれて居ます。
周波数委員会は諮問委員会と呼ばれるもので、会長名で理事会から諮問(調査検討依頼のようなもの)が降りてきてそれに答申(その調査検討結果)を提出するミッションをこなす作業部会です。この答申書の結果に基づき、JARLが総務省へ改訂を働きかけるというプロセスです。なお、委員会は答申書を作成するまでの作業で総務省との交渉は委員会がおこなうわけではありませんし委員が同席するものでもありません。委員会からの先のプロセスや具体的な交渉経過は委員でもよくわからない密室交渉スタイルです。
新参モードは全電波形式(実験・研究用)区分を活用する方法もある
使用区分の基本的な考え方として、専用区分があるモードは専用区分で運用すべしというルールがあります(JARL会員手帳参照)。VoIP無線が主に全電波形式(実験。研究用)区分で運用するよう勧められている根拠はここにあります。
これを見ると、「新参モード」は、実験研究用区分で育て(過渡期)、普及(成熟)してきたところで必要に応じて専用区分を設定するというプロセスを想定していると読めます。よって、専用区分が設定されるまでは「新参モード」は客観的にみてまだその過渡期であると評価されていると考えることができます。現在これに該当するのは、D-STARデジタル(データと音声を同時に送信できるF7WなどやDDモード)とVoIP通信ではないでしょうか。最近登場したジャンルでも、従来からあるパケット通信のプロトコルをそのまま使用してデータ通信をおこなっているAPRSの電波は従来からある広帯域デジタルという専用区分を使って通信しなければなりません。
なお、通常のFMの電話で運用する局は「広帯域の電信・電話・画像」として専用区分がありますので、本来でしたら通常運用のFM局は当然のように実験・研究用区分を使用できる訳ではなくいわば2次業務的な使用に限られると考えていたのでしょう。しかし、残念なことに、そのあたりが周知徹底されていないばかりか、その意図が条文に反映されていないテキトーさも今回のような区分改訂への動きを生む引き金となったとも考えることができます。結局のところ、これらの制度の運用手法や条文の瑕疵が混乱を生んでいるという側面もあるのではと思います。
その他、条文の運用上の問題は、区分境界周波数の利用の件にもあります。これは行政サイドでも間違った指導や見解を発表してしまったり、結果として「正しい判断をPRしていた総務省のとある部署のWEB内容」が突如として消えるなど、混乱したのは記憶に新しいところです。
使用区分は二段構え構成
使用区分の定めは「区分内で発射できる電波の型式」と、「伝送・用途等の別」として注釈などで占有帯幅その伝送内容や様態、を定めるという二段構え以上の構成となっていて、全ての段の要件を満たす電波がその区分内で発射できるという考え方となっています。(注:占有帯幅に関しては設備規則にも定められています)
個人的にお手本にしている区分図はこちらです→ 東海総合通信局(リンク)
告示条文を漏れなく網羅しつつもかなりスッキリとまとまっていると思います。実は、今までおこなわれた周波数委員会での審議でも、考え方や区分図はこれをお手本すべきだと提案させていただいております。
要するに使用区分の条文は、発射できる電波の型式のククリに加えて、様態や伝送内容などその他のククリで構成されているということになります。VoIPについては、F3Eが主に使われますが、その様態が、一般的な「広帯域の電話・電信・画像」区分で想定した通信とは明らかに異なる、インターネットへのアクセスポイントの運用とその利用というもので、近年、総務省が「審査基準」で合法と判断することを明示した運用形態でした。

※↑総務省が開示した審査基準より抜粋
【形態1】'で音声によるインターネットアクセスも想定している
もしVoIP無線用区分が実現される際の条文を想像すると、VoIP無線(VoIP通信)の様態としては、ネット側からの音声等を送信するノード局(公衆網接続局)とノード局に音声を送信するユーザー局という構成となりますので、ここでは、「公衆網接続局およびそれと通信をおこなう場合に限って電波を発射できる」という感じの特記条項が付されることになるのではと思われます。このククリでそれ以外の様態での電波の発射はできなくするというわけです。一方で、それ以外の区分では、VoIP禁止の注釈を付すわけです。
VoIPについてはとりあえず別の解決方法もなくはなかった(当時)
まるで、私が区分策定のために翻弄したというような中傷を受けていますが、とんでもない話です。結論として「区分設置」となりましたけど、当時、「全電波形式、実験・研究区分」の位置づけや考え方をしっかりと展開していれば状況はもう少しはよくなっていたのかもしれません。というのも、アマチュア無線では、あらたなモードや運用形態が登場することは想定の範囲内あるはずで、過渡期の状態でしばらくの間はうまく運用できるようアマチュアバンドの使用区分は全電波型式(実験・研究用)区分などを設定するなどの手法で構成されていると考えることができるわけですから。
余談ながら、すでに実用化されているメジャーな運用形態(CQを出す典型的な運用やラグチューや仲間との連絡)は、パーソナル無線でも特定小電力無線でも、CB無線でもおこなわれています。このような運用は使用周波数や出力、電波状況が異なるだけでアマチュア無線特有のものではない。機器の自作(トランシーバに限らず)、新しい運用形態やモードを試せる、さらに無駄と思えるような試みができるがアマチュア無線という本質を忘れてはならないということです。
それなのに、このような動きになったのは、関係各所が具体的な解釈の確認に突っ込まなかったのも原因のひとつなのかもしれません。「当時の」トラブル回避の方法としては当時「考え方の周知」と「区分改訂」の二つの方法があったわけです。結果は後者をとる方向で動いたのです。言葉を変えれば隔離してトラブルを防止しよう。ということです。
もちろん、パソコンの普及によりユーザーが増えているPSK31やRTTYなどの狭帯域デジタル通信やEMEが運用できる区分の拡大の要望が多数あったと発表されていますので、いずれにせよ改訂作業は必須という背景はありました。
その後の動きですが、先だってのJARL総会における地元監督省庁のトップのかたの祝辞で「WiRESなど新しい運用形態による通信もスムースにおこなえるようにするため区分改訂をおこなう」という固有名詞を付しての発言もありました。最近になって監視にイタズラを申告したところ「専用区分を実現しますからもうちよっと待っててください」と言われたケースもあるそうです。やはり行政サイドは現場を良く知っていてすでに解決策としての効果を期待し施行を待っている状態ともいえます。さらに、VoIPには興味が無い人たちからも区分を分けてアマチュア同士の混乱を避けるべきだというメールを頂戴した事があります(最近)。現場はそのような認識なんです。
とにかく、これら現状や問題点をしっかりと認識している人たちの顔を潰すことや期待を裏切ることがないよう、早めに結論を出してほしいものです。
混信回避義務について
ところで、アマチュア無線の性質とその位置づけ上、混信回避の件については、かなり前から公開している別のページに記載しています。
もし、全電波形式(実験・研究用)区分が本来意図する内容で運用されていればガラガラだったはず。混信回避義務についても、混信の恐れを認識するに至るほどの材料はないに等しかったと思われます。
さらに、「電波発射前の聴取義務」は運用規則第二章第二節の「無線電信」の一般的用法についての規定であって、「無線電話もそれを準用する」という条文によるもの。VoIP無線=インターネットアクセスポイントとその利用という運用形態について「一般規定」を準用するのははたして妥当なのでしょうか。そもそもVoIP無線における「無線電話」の音声とは単なるインターネットとの間で送受信するコンテンツに過ぎないのですから。
※一部・全部を問わず引用・転載は一切禁止します。
※当文章は周波数委員会の見解を示したものではありません。また内部情報には触れていません。
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